第6回 憧れの筋肉痛 「遅発性筋肉痛」
学校では教えてくれないので若い方は知らないと思いますが、筋肉痛は年をとると遅くでるのです(遅発性筋肉痛)。激しい運動をした後、若い時は当日か翌日に筋肉痛が起きますが、30歳を過ぎた頃から翌日は痛くなくて、おかしいなと思っていると翌々日に痛くなって、更に40を過ぎた頃からは3日後に痛くなるのです。私が「年とったなー」と思ったのはその瞬間でした。
最近スポーツクラブへ入会しました。30年位前にまだスポーツクラブができ始めの頃、表参道のスポーツクラブに通っていて、エアロビクスをやったりしていました。その頃ステップと言って段に上ったり降りたりするのをやったあと、翌日には歩けないほどふくらはぎが痛くなったことを覚えています。でも最近ではテニススクールを3時間やっても身体は痛くなりません。スポーツクラブで筋肉トレーニングを結構がんばってやりますが、2日経っても、3日経っても筋肉は痛くなりません。20年前には這いつくばるほど大変だったステップもやってみましたが筋肉痛は起きません。
筋肉痛は年とともに遅く起こるだけではなく、最後には筋肉痛は起こらなくなるんだと経験的に結論したわけです。高齢者で筋肉痛を訴えている人が少ないことにも気がつきました。そんなわけで年をとると筋肉痛は起こらないんだと知人に自慢げに話していたわけです。
ところが筋トレに詳しい友人達(私の大学生の子供を含めて思いがけず周囲にたくさんいるのです)が異論を唱えて、「きちんと筋肉を使えば筋肉痛は起こるのだ。10回目でやっと位の負荷をかけないといけないのだ」と教えてくれました。そういえば・・ということで友人の言に従って強い負荷をかけてやってみたところ翌日は手が上がらなくなり、2日後には憧れの筋肉痛が起こりました。ステップも2段にしたところ翌日から階段を下りるときにふくらはぎが痛くなり、翌々日には平地を歩いても筋肉痛がでて、久しぶりに運動したなーと満足することができました。
振り返ってみると、テニスの時もできるだけ跳ばないようにしていましたし、走る距離を短くするためにコートの中で近道をしていました。ステップも2段を1段にしてやっていました。筋トレも一番軽いところで回数ばかり多くやっていました。年をとって筋肉痛が起こらなくなるのではなくて、年をとると筋肉を使わない術を知るようになるのだということが分かりました。でも友人達が言うほど直ぐには痛くなりませんし、痛みの程度も強くありません。
筋肉痛は筋肉が引っ張られて筋繊維損傷が起こり、炎症を起こして痛くなるといわれています。別に筋肉内に乳酸がたまって筋肉が硬くなって血流が悪くなって痛みが起こるという説もあります。ランニングなど持続的に筋肉を使うと早く筋肉痛が起こり、ウエイトトレーニングなど瞬発的な運動や慣れない運動をすると筋肉痛のピークが遅くなるといわれていますが、まだ完全には解明されていないようです。理論的には年齢と筋肉痛の発現に関係はないといわれています。
でも私の実証的検討からは「年をとると筋肉痛の痛みは程度が軽い」ということは言えそうです。痛みを感じる末梢神経が老化し鈍化するせいかもしれませんが、もしかしたら糖尿病で末梢神経障害が出ているのかもしれません。もしそうならばあまりうれしくはありませんし、直ぐに調べないといけません。
鶴巻温泉病院 病院長 鈴木 龍太
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執筆 鶴巻温泉病院 病院長 鈴木 龍太