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鶴巻温泉病院 〒257-0001 神奈川県秦野市鶴巻北1-16-1 TEL 0463(78)1311

延命治療(延命処置)って何ですか?

院長 鈴木 龍太 が一般の方にもわかりやすく解説しました。病気の話「延命治療(延命処置)って何ですか?」

執筆 鶴巻温泉病院 病院長 鈴木 龍太
イラスト 星あかね

延命治療(延命処置)って何ですか? -救命のための治療とは少し違います-

 あなたは最期をどのように迎えたいですか?

 皆さん死ぬときはぽっくり逝きたいと思っていらっしゃる方が多いと思います。いわゆるピンピンコロリです。2018年にホスピス財団が実施した調査では、「ある日、心臓病などで突然死ぬ」というぽっくり死を希望する人が77.7%に上ったそうです。でも実際にはぽっくり死ぬことはなかなかできません。病気になって、だんだん悪くなったり、要介護になって、自分が分からなくなったりして、いつか最期を迎えます。病院に入院していると栄養チューブや、尿の管、呼吸の管、点滴等色々なチューブを入れられて、管を抜かれないように手にミトンの手袋をされたりして、自由を拘束されてしまいます。もちろんこれらの治療・処置によって回復してくれば、治ったり、良くなって退院することができます。

 でも、もう治らないとわかっている場合にも、このように管を入れたり、処置を行ったりすることがあります。このような処置を延命治療と言います、延命処置と言う場合もあります。延命治療・延命処置とは、回復の見込みの無い人に対する延命だけを目的とした医療行為の事を指します。


 では延命治療とは具体的にどんなものか、知らない人も多いと思いますから、これから説明します。間違えないでいただきたいのは、これらの処置は手術の時や、肺炎等の急性期の病気や外傷の治療のためによく行うものです。あなたが回復するための治療として実施することを提案されたら、積極的に受けてください。

 がんの末期や重度の病気・老衰・事故など、治療しても回復する見込みがないと判断した時に行う場合のみ延命治療と言います。これらの処置をしても回復することはなく、一時的に命を延ばすために行う医療行為の事をいいます。延命治療を行うかどうかはその人の尊厳に関わる問題です。元気なうちに家族や近しい人、医療・介護関係者とコミュニケーションを取って、実施するかどうかの意思を表明しておくことが望まれます。


 あなたらしい最期を迎えるために、救命治療の中で受けるものと、受けたくないものを事前に選んでおき、周囲の人に知らせておくことをお勧めします。ご自分の意思を書いたものを事前指示書(リビングウィル)といいます。

1.心臓が止まった時

 外出中や家の中でも突然人が倒れたら、首か手首で脈があるかチェックし、胸や口の状態で呼吸があるか調べます。心臓が動いていないと判断したら救急車を呼び、心臓マッサージをしながら、その間に近くの人に自動体外式除細動器(AED)を持ってきてもらい、AEDをかけます。

 心臓マッサージ(図1)は胸の真ん中に手のかかとの部分を重ねてのせ、肘を伸ばしたまま真上から強く(胸が約5センチ程度沈むまで)押します。押した後には瞬時にその力を緩めますが、手が胸の真ん中から離れないよう、ずれないようにします。

 これを1分間に100~120回の速さで繰り返し続けます。以前は救命の場合に口移しに呼吸を補助していましたが、最近ではしなくなりました。心臓マッサージの副作用として肋骨骨折がありますが、救命の際はAED到着まで、骨が折れても続けます。

図1心臓マッサージ
図1 心臓マッサージ

 病院でも急変や予想外の心肺停止時には救命のために心マッサージとAEDを実施します。
 ただし、がんの末期や病状の進行で回復の見込みがない場合、看取りの方針であるターミナルケアや緩和治療の場合では心臓が止まったときに心臓マッサージを行うのは延命治療となります。

2.血圧が下がった時

 心臓の機能が低下したり、出血が多くなると血圧が下がります。救命のために輸液、輸血、昇圧剤(血圧を上げるための薬)を投与します。心臓マッサージと同様にターミナルケアの際に昇圧剤を使用することは延命治療となります。

3.腎臓が悪くなり、尿が作れない

 慢性腎不全の状態になれば人工透析が必要になります。治療としての一般的な透析の方法は腕の血管に針をさして、ポンプを使って血液を取り出し、透析装置で体に貯まった老廃物や余分な水分を取り、電解質を正常な状態にして、身体に戻します。1日4時間、週3回が一般的な方法です。透析を続けていると心臓や血管に変化が起きるので、透析患者は心臓や血管の病気に注意が必要です。

 延命治療を望まないで人工透析をやめた場合の生存期間は数日から2週間程度と言われています。また慢性腎不全になって透析をしないという選択をした場合も数週間から数か月の生存期間と考えられます。身体に水が溜まり、心不全や肺水腫(肺に水が溜まる状態)となり、呼吸が苦しくなります。

4.口から食事が摂れなくなった時

 意識障害や病気・老衰が進むと飲み込み(嚥下)ができず、食事が摂れなくなります。また食欲や意欲がなく口から十分な量の食事ができなくなることもあります。その場合はいくつかの選択肢があります。

(1)「食べられるだけ食べて、食べられなくなったらそれで良い」と自然にまかせる。

 本人が食べたいだけ食べるという方法です。食事が摂れなくても楽しみ程度にゼリーを食べるとか、好きなものを口に含むだけのこともあります。最期に自分の好きなものを食べたいと希望される人は多く、少しでも口から食べたり、味わったりすることで皆さんとても喜んで、笑顔になります。

 嚥下機能が落ちているときに食べると、むせて肺炎になる可能性が高いので注意が必要です。これを誤嚥性肺炎と言い、高齢者の肺炎で最も多く、死亡原因となります。少しずつ食べていても最後は全く食べられなくなります。食べられなくなると1-3週間で衰弱して亡くなります。

(2)経管栄養(流動食)

 口から食事が摂れない場合に流動食をチューブから入れて、栄養を摂る方法があります。胃や腸を使うので、点滴よりも生理的で腸管の機能を保つことができます。十分なカロリーを入れることができますから、半永久的に続けることができます。チューブを入れる経路が2種類あります。

①:経鼻(けいび)チューブ(図2)

 鼻から管をいれます。先端が胃に入っていることを医療者が確認する必要があります。1-2週に1回交換します。

図2 経鼻チューブ
図2 経鼻チューブ

 抜けやすいので、老健や特養等の介護施設では受けてもらえないことがあります。自分で抜かないように、手にミトン風の手袋をしたり、手を縛ったりする身体拘束をする場合があります。

②:胃ろう(図3)

 胃に穴をあけて、チューブをお腹から外に出します。胃ろうを造るためには内視鏡を使った手術が必要ですので、胃ろう造設のために1泊2日程度の入院が必要となります。経鼻チューブと違い、抜けにくく、管理しやすいのが特徴です。胃ろうには固定法が2種類あり、バルーン型では月に1回程度の交換、バンパー型では4-6か月に一度の交換が必要です。老健や特養等の介護施設では経鼻チューブは受けられないが、胃ろうなら受けられるというところが比較的多いです。

図3 胃ろう
図3 胃ろう

 最近では「胃ろうを入れたら抜けなくなる」、「延命治療だから胃ろうはしたくない」と言う方が多くいます。でも治療のために胃ろうが効果的なことがあります。脳卒中等で嚥下障害が強い時に胃ろうを作成して栄養を取りながら、嚥下のリハビリテーションをすることがあります。口から食事が摂れるようになったら胃ろうを抜くという方法です。食べ物を飲み込む際に、経鼻チューブよりも胃ろうの方がずっと飲み込みやすいので、リハビリテーションにも有効です。何回も言うようですが、経鼻チューブも胃ろうも通常の治療法として必要な場合がありますから、そのような時は躊躇せずに選択してください。

(3) 経静脈栄養(点滴)

 静脈ルートをとって、点滴で栄養を摂る方法です。

①中心静脈栄養(図4)

 首や股の静脈を指して、身体の中心部の太い静脈までチューブをいれ、ブドウ糖濃度が高くカロリーが高い点滴をします。濃い点滴なので、太い静脈でないといけません。十分な栄養が投与できるので、半永久的に継続できます。腸などの消化管機能が低下していても栄養を投与できます。チューブは半年に一回程度交換します。

 静脈を刺して、心臓に近いところまでカテーテルを送りますから、刺すときに技術が必要です。鎖骨下静脈から刺入する場合は気胸等の合併症が起こりやすいですし、長いこと人工的なチューブを入れておくと感染を起こして抜かなければならなくなることがあります。人工的な栄養ですので、微量元素と言って自然の食品には含まれているものが不足しがちになります。鉄、亜鉛、銅、クロム、モリブデン、マンガン、セレン、ヨウ素の8種類で、意識的に補うようにします。腸を使わないので、消化機能の低下、肝機能障害も注意が必要です。点滴の交換や清潔管理等在宅では管理が大変です。口の清潔が保てないので、口腔ケアも必要です。

図4 中心静脈栄養と末梢点滴
図4 中心静脈栄養と末梢点滴

②末梢点滴

 腕などの細い血管から水分とカロリーを補給します。濃い点滴はできないので、投与するカロリーは十分ではありません。そのため徐々に低栄養になって、痩せてきます。

 3月から1年位で亡くなります。細い静脈は確保できないことも多く、その場合はお腹に直接針を刺して、点滴を入れる皮下注射と言う方法もありますが、入れられる水分量が少なく、長くは持ちません。

5.呼吸が辛くなったり、できなくなった時

①挿管(図5,6)

 口や鼻から管を入れて呼吸する道を確保します。挿管チューブは長く使用できないので、1-2週間で交換するか、それ以上続けなければならない場合は気管切開をします。挿管していると、声を出したり、食事をすることはできません。

図5 挿管をしているところ
図5 挿管をしているところ
図6 挿管状態の患者さん
図6 挿管状態の患者さん

②気管切開(図7,8)

 挿管が長くなると、のどに穴を開けて、カニューレを挿入し、呼吸する道を作ります。
 気管内吸引をすることもできます。カニューレは2週間程度で交換します。意識の良い場合は特殊なカニューレにすれば声をだしたり、口からものを食べたりすることができます。

図7 気管切開の患者さん
図7 気管切開の患者さん
図8 気管切開の断面図
図8 気管切開の断面図

③人工呼吸器(図9)

 睡眠時無呼吸のように睡眠時等一時的に呼吸をサポートする場合があります。この場合非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)と言って、挿管チューブではなく、マスクで呼吸器を接続します。マスクですので、中断も自由にできますが、逆に簡単に外れてしまいますし、痰が多い人の気道の吸引はできません。確実に呼吸を補助する必要がある場合は挿管チューブや気管カニューレと繋ぐ人工呼吸器が必要ですが、これを侵襲的陽圧換気(IPPV)と言います。

図9 人工呼吸器
図9 人工呼吸器

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