第10回 変形性頚椎症 椎間板ヘルニア -上を向いて歩こう-
国際学会で色々な国の人と一緒に歌を唄おうということになったことがあります。色々聴いてみると各国の人が最も知っているメロディは日本名で言う「蛍の光」の曲でした。各々の国の歌詞の意味は全く違いましたが世界中の人たちと合唱ができました。「蛍の光」の原曲は、スコットランドの古い民謡の'Auld Lang Syne'だそうで、宴会の最後に再会を誓って歌うそうです。
ハイドンやベートーヴェン、シューマンといった作曲家たちも伴奏を付けたり編曲をしたりしているので世界中に知られているようです(Wikipediaより)。日本の曲ではタイトルにある「上を向いて歩こう」を唄ったところ結構好評でした。1963年に「SUKIYAKI」という名前で米国で発売され、3週連続1位の大ヒットとなった坂本九の唄った有名な歌です。
でもこの歌のように上を向いて歩いてばかりいるとその後が大変です。上を向く職業があります。植木屋さん、左官屋さん、電気工事をする人などです。こういった人たちの首の骨(頚椎)を調べると若いのに変形していることが多いのです。
頚椎は7つの骨で出来ています。首の長いキリンも同じ数です。一番上を第1頚椎といい一番下を第7頚椎といいます。第1,2頚椎は首を左右に回す動きを担当します。3-7番頚椎は首を前後に曲げる動きをします。上を向いているときは頚椎と頚椎の間にあるクッションの役割をしている椎間板が圧を吸収してカーブをつくります。椎間板は若いうちは水々しく栄養も沢山とれるのですが、30代になると椎間板に行く血管がなくなり、だんだん硬くなります。頭の重さは体重の約13%と言われていますから、体重が60kgの人では7.8kgの頭の重さを頚椎が絶えず支えていることになります。
更に年齢や姿勢、仕事、スポーツ、小さな外傷などが積み重なると骨の変形や椎間板の変性がおこって変形性頚椎症という状態になります。時には椎間板が頚椎からはみ出して脊髄を圧迫するようになる椎間板ヘルニアになったりします。最初のうちは首の痛みや肩こりなどの症状ですが、ひどくなると手のしびれや筋肉の麻痺などが起こります。変形性頚椎症や椎間板ヘルニアは第5-6頚椎と第6-7頚椎の間に最も多く起こります。これは上を向いたときにこの部分に最も圧がかかって負担が大きいからです。
そんなわけで上ばかり向いていると頚椎が悪くなるという話でした。
鶴巻温泉病院 病院長 鈴木 龍太
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執筆 鶴巻温泉病院 病院長 鈴木 龍太