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第3回 高齢者への「エイジハラスメント」をなくそう!フレイル(虚弱)はリハビリで予防できる
フレイル(虚弱)はリハビリで予防できる
(depositphotos.com)
皆さんは「エイジハラスメント」という言葉をご存じでしょうか? これは、年齢を理由にした差別や嫌がらせのことを言います。
2008年に内館牧子さんが『エイジハラスメント』という小説を発表し、2015年にテレビドラマになっていますから、ご覧になった方もいらっしゃると思います。日本ではあまり使われていない言葉ですが、ドラマでは、30歳以上の女性に対してエイジハラスメントがされていました。
たとえば、80歳の女性を名前で呼ばず、「おばあちゃん、今日はどうですか?」などと言うのがエイジハラスメント。若い女性が「おばちゃん」と呼ばれて傷つくのと同じです。高齢者だからといって「おばあちゃん」「おじいちゃん」とは呼ばれたくないものです。
今回、紹介するエイジジハラスメントは、ドラマのものとはちょっと違って、医師と患者の話です。
病院で発生するエイジハラスメント
日本は超高齢社会を迎えています。2015年の統計では、病院に入院している人の50%以上が75歳以上で、65歳以上は70%を越えます(患者調査の概況:2015:厚労省)。若い人は病気になる率が低く、病気になっても早く治って退院できますから、自然と入院患者は高齢者が多くなります。
2025年には団塊の世代(1947年から1949年の3年間に生まれた世代)の約800万人が、75歳の後期高齢者になります。病院は、外来も入院も、ほとんどが高齢者という時代に突入します。ちなみに現在の出生数は95万人(「平成29年人口動態統計の年間推計」厚労省より)。団塊の世代は年間260万人以上が生まれているので、いかに団塊の世代の出生数が多いかが分かると思います。
さて、もし外来に80歳の頭痛の患者さんが来られ、検査をすると脳腫瘍で、手術をしたほうが良いと判断されたとします。そこで、その医師は考えます。
「80歳だから手術に耐えられないかもしれない。全身麻酔も大変だ。合併症率も高い。現在、脳腫瘍の症状が軽いし、すぐに命にかかわるものではないので、様子を見てはどうだろうか?」
そして医師は、本人や家族にそのように説明し、様子を見るように誘導します――。私の言っているエイジハラスメントとは、このことです。
先に述べたように病院の患者の5割以上が高齢者です。全ての人が虚弱なわけではありません。元気な高齢者もいれば、息絶え絶えの高齢者もいます。人によって健康状態はさまざまです。つまり、年齢でその人の元気さを判断してはいけないのです。
たとえば、「もう歳だから、手術はやめましょう」「腰が痛いのは年のせいだから、治しようがありません」という言葉がエイジハラスメントになります。
ではどうすればよいのでしょうか?
日本老年医学会が提案する「虚弱」から「フレイル」へ
最近、「フレイル」あるいは「フレイリティ(Frailty)」という言葉が登場しました。日本老年医学会が、「虚弱」という言葉はマイナスイメージが強いということで、「フレイル」という言葉を用いることを提案しました(公益財団法人長寿科学振興財団のHPより)。
次の5項目のうち3項目が当てはまるとフレイルの状態と判断します。
- 体重減少:年間4.5kgまたは5%以上の体重減少
- 疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3.4日以上感じる
- 活動量低下:1週間の活動量が男性が383Kcal未満、女性が270Kcal未満
- 歩行速度の低下:標準より20%以上の低下
- 筋力低下:標準より20%以上の低下
フレイルの人はそうでない人と比較すると、3年間の死亡率が2.2倍になるそうです【註1】。また、高齢になると筋肉量が衰えてきてサルコぺニアという状態になったり、歩くのが遅くなって青信号のうちに渡れなくなったりするロコモティブ症候群などの状態になります。どちらもフレイルになりやすい状態だと言えます。
サルコぺニア、ロコモティブ症候群、フレイル状態は、運動機能が低下し、社会参加が減り、認知症となりやすく、要介護の入り口です。
フレイル状態の人もリハビリテーションで改善できる
一方、フレイル状態の人も30%程度はフレイル状態から改善できるという報告があり、高齢者はフレイルの予防と改善対策が重要だと言えます。
フレイルの予防には栄養、運動、社会参加が重要と言われています。この3つの要素は、リハビリテーションに全て備わっています。
リハビリテーションというと、障がいが起きて失われた手足の機能を訓練することにより取り戻すというイメージがあります。でも私たちは、リハビリテーションを「人間らしく生きる権利の回復」ととらえています。
運動機能ばかりではなく、食事を摂るための嚥下機能訓練、職場復帰のための職業訓練、社会参加のための訓練が含まれます。高齢者にとって、おいしく食事が食べられることは毎日の一番の楽しみかもしれません。高齢者や障がいを持った人に楽しみを感じてもらえるように、食事や外出、行事に参加することなどで満足感を感じられるように、QOLが向上することを目標にしています。
そしてリハビリテーションで「Enjoyment of life」を得ることが重要だと考えています。高齢社会、地域包括ケアでは、いかにリハビリテーションが重要かが良くわかります。
病院に行って「もう歳だから」と言われないように元気でいること。フレイル予防、介護予防のために、リハビリテーションをすることが、これからの元気の秘訣です。
医療者の方々も「おじいちゃん、おばあちゃん」と呼んだり、「歳だからあきらめましょう」とか「歳だから治りません」とか言わないように気をつけましょう。
【註1】 Fried LP, et al.: Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 56(3): M146-156, 2001 Bandeen-Roche K, et al.: Phenotype of frailty: characterization in the Women’s Health And Aging Studies. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 61(3): 262-266, 2006)
「日本をリハビリテーションする」について
HEALTHPRESS 連載企画「日本をリハビリテーションする」では、脳卒中(脳梗塞、脳出血)、リハビリテーションについて知っておいていただきたいことを、分かりやすく説明しています。