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第2回 脳梗塞は「夏」に最も多い!重要なのは熱中症と同じく水分補給&「ACT-FAST」
脳梗塞は冬に多いイメージですが、脳梗塞は夏に一番多いことがわかってきました(2015年 脳卒中データバンク)。
特に今夏のように猛暑が続いていると、気温が上がり、血管が拡張しているところに、発汗し脱水状態になると、脳梗塞が起こりやすくなります。ですから、熱中症の予防と同様に、水分を十分にとり、休みながら活動してください。
一方脳梗塞の中でも、脳塞栓は冬に多いとされています。脳塞栓は心房細動などで、血液の塊ができ、脳の血管に飛んで、脳の血管を閉塞して、脳梗塞を起こす病気で、高齢者に多い脳梗塞です。
ところで皆さんは「ACT-FAST(アクトファースト)キャンペーン」をご存知ですか?
「顔の左右が非対称になる(Face)、手が上がらない(Arm)、言葉がしゃべれない(Speech)。これらの症状があったら、すぐに救急車を呼ぼう(Time)」というもので、脳梗塞の治療法である血栓溶解療法を、できるだけ多くの人に実施できるようにするためのキャンペーンです。なぜ「ACT-FAST」が大事なのか? それは後ほどご説明します。
脳細胞は1度死ぬと再生しない
脳梗塞は脳の血管が詰まる病気です。 動脈硬化などで血管内腔が塞がり、その先の脳細胞に血液が送れなくなると脳細胞は酸素欠乏と栄養不足になります。この状態を「脳虚血」といい、これがしばらく続くと脳細胞は死んでしまい、脳梗塞になります。
そして、脳細胞は1度死ぬと再生することはありません。最近一部の細胞で再生する可能性が指摘されましていますが、特殊な場合に限ります。
障がいを受けた脳の場所が「運動」に関係があれば「運動麻痺」が起こり、「感覚」に関係があれば痺れなどの「知覚障害」が、「言語」に関係があれば「言語障害(失語)」が起こるというように、梗塞の場所によりいろいろな形で症状が出てきます。
脳梗塞には、動脈硬化によって脳動脈が徐々に狭くなって最終的に閉塞する「脳血栓」と、脳以外の主に心臓でできた血の塊(血栓)が、血液の流れにのって、脳動脈に達し血管内腔を塞いでしまう「脳塞栓」に分けられます。
脳塞栓の多くは、心房細動(脈が200以上になってドキドキする病気)が原因です。故・小渕恵三首相や、長嶋茂雄監督が脳梗塞になった原因は、ストレスが心臓にきて、心房細動になり、そこで血栓ができて、血栓が脳に飛び、脳の血管につまり、脳塞栓を起こして、脳梗塞になったものです。
2005年以降、脳梗塞の治療法は劇的に改善
脳梗塞の治療法は、2005年10月に劇的に変わりました。詰まった血栓を溶かす組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA:アルテプラーゼ)の静脈注射法ができるようになったのです。
それまでも詰まった血栓を溶かす試みはありましたが、それほど効果的ではありませんでした。t-PA静注の効果が立証され、正式に臨床で使えるようになりました。
しかし、この治療法には条件があります。発症後、直ぐに病院に行くことができて、診察、CTスキャンやMRI、採血検査等を実施し、検査結果が要件を満たし、禁忌事項がなく、4.5時間以内に治療が開始できる場合に限ります。
2005年当初は3時間以内でしたが、2013年2月により多くの患者さんに実施できるように発症から4.5時間以内と改定されました。なぜ4.5時間以内に実施しないといけないかというと、時間が経つと、脳組織に障害が広がり、出血しやすくなります。それによって、t-PAを打つことで脳出血の頻度が高くなるからです。
とは言っても脳血栓溶解療法は万能ではありません。脳血栓溶解療法を4.5時間以内に実施できても、症状が改善するのは、治療ができた患者さんの20~40%しかいません。逆に脳に出血を起こして症状が悪化することもあります。
20~40%であっても、脳梗塞を発症したら一刻も早くt-PAの治療ができる病院にたどり着くことで、回復するチャンスをつかむことができます。顔の麻痺、腕の麻痺、言葉の障害の3つのうち1つでも症状があれば、遠慮しないで救急車を呼んで構いません。
「顔(Face)・腕(Arm)・言葉(Speech)」は救急隊員が脳卒中を見分ける尺度にしている症状です。先にご紹介したように、「顔(Face)・腕(Arm)・言葉(Speech)」に時間(Time)を加えて、ACT-FAST(アクトファースト)と覚えてください。救急隊はt-PAのできる病院へ運んでくれます。
「FAS」があれば遠慮せずに救急車を呼ぶこと
一方、t-PA静注だけでは改善しない例も少なくありません。最近では、t-PAを打ったあとに、動脈からカテーテルを脳の詰まった血管に誘導し、血栓を破壊したり、回収したりする治療法(血栓回収療法)が行われるようになってきました。t-PAを点滴しながら、血栓回収ができる病院へ救急車で搬送することもあります。これを「Drip and Ship」と呼んでいます。但しこの方法は脳塞栓には有効ですが、脳血栓にはあまり適応はありません。
さて、このようにキャンペーンをしても、ACT-FASTは、まだまだ皆さんには普及していません。「FAS」の症状があっても、かかりつけの先生に相談したり、様子を見たりすることが多いと思います。また、救急隊を呼ばずに、脳外科や神経内科のある病院に行くかもしれません。
でも、それでは4.5時間以内にt-PAが打てなくなる可能性が大きくなってしまいます。実際、病院に早く着いて、血栓溶解療法ができた脳梗塞の患者さんは、脳梗塞を発症した患者さんのうち5%程度しかいません。
救急車を呼べば、救急隊がt-PAを打ってくれる病院へ運んでくれます。ですから、近所の病院へ行くよりも、救急車を頼んだほうがt-PAが打てる確率がずっと高くなるのです。ともかく、「FAS」があれば遠慮せずに救急車を呼びましょう。
このように血栓溶解療法が実施できない患者さんがたくさんいるので、最近ではt-PAができなかった患者さんには血栓回収術を積極的に実施するようになっています(脳卒中ガイドライン2015)。但し、血栓回収術を実施できる病院は少ないので、それほど多く実施されているわけではありません。
そして、脳梗塞になって、手足の麻痺や失語などの障害が残ったら、早くリハビリテーションを開始することが重要です。重症を除いて、脳梗塞の治療は1週間ほどで安定しますから、7~10日程度で回復期リハビリテーション病院(病棟)で移ることをお薦めします。急性期の病院でもリハビリは実施すると思いますが、回復期リハでは1日2~3時間、土曜、日曜も休みなくリハビリを行います。リハ療法士が1対1で患者さんに張り付いてリハビリをします。
早く回復期リハへ移ることで、症状は良くなりますし、早く家へ帰れます。是非覚えておいてください。
「日本をリハビリテーションする」について
HEALTHPRESS 連載企画「日本をリハビリテーションする」では、脳卒中(脳梗塞、脳出血)、リハビリテーションについて知っておいていただきたいことを、分かりやすく説明しています。