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鶴巻温泉病院 〒257-0001 神奈川県秦野市鶴巻北1-16-1 TEL 0463(78)1311

失 神

脳神経外科専門医の病院長 鈴木 龍太 が「脳の病気」についてわかりやすく解説しました。

執筆 鶴巻温泉病院 病院長 鈴木 龍太

どんな症状

失神:短い一過性の意識消失

 短い一過性の意識消失を失神といいます。失神は一時的に脳に行く血液や、酸素、ブドウ糖などが欠乏して起こるものです。失神は通常数秒から数分間で全く後遺症を残さずに軽快しますが、それ以上続くものは意識障害であり、脳や心臓に何らかの障害がある場合があります。また突然倒れるために頭を強く打って、失神というよりも頭部外傷で重篤になることや、失神が長く続くと、脳の血流不足のために脳に障害を残してしまうこともあります。最も多いものがいわゆる脳貧血というものです。


 若い人に多く通常立っている時に起こり、目の前が暗くなり、めまい感や悪心などの前駆症状に続いて顔面が蒼白になり意識消失して倒れてしまいます。これは血管迷走神経反射性失神と言われるものです。強い痛みや精神的ショック、ストレスが誘因となって自律神経のバランスがくずれ、抹消血管の抵抗が減少し血液が心臓に戻らなくなり、血圧低下となり脳血流が低下して意識がなくなります。この際徐脈、冷や汗を伴います。
 このような場合は一時的な体調の問題で病院へ行く必要はない場合が多いですが、失神を繰り返す場合や横になっている時に起こす失神は他の病気が原因になっていることがありますから病院へ行って調べてもらったほうがいいでしょう。

どんな原因

 失神の原因は脳や脳に行く血管の病気の場合とそれ以外の身体の状態が原因で脳循環障害が起こる場合に大別できます。


 脳が原因の失神にはてんかん発作があります。
 てんかんはいろいろな種類があり意識消失だけでなくそれぞれ特有な症状を伴います。てんかんと診断されている場合は通常失神には含まれませんが、失神かてんかん発作か区別するのに困る場合も多く見られます。特に乳幼児では失神が起こることは稀です。高熱に伴った意識障害は熱性けいれんですが、どちらにしろてんかん発作も考えて病院に行くことをお勧めします。


 脳が原因の失神で多いものは脳血管の異常からくるものです。脳の動脈硬化が強い人で血圧が低下したり、血液の粘度が高くなって一時的に脳の血流が減少するとめまい、悪心、物がダブって見える複視などを伴う失神がおきます。これは椎骨脳底動脈循環不全といい脳の中心部にある脳幹部への血流が低下した状態です。
 またくも膜下出血は重症の場合は昏睡状態になりますが、失神だけで一時的に回復する場合もあります。この場合は今迄に経験したことの無いほどの強い頭痛や後頸部から頭に向かって燃えるように熱い感じを伴うことが多いです。このような脳血管の異常による失神は先に延べた冷や汗や徐脈などの迷走神経刺激症状を伴うことは少なく、突然起こります。このような場合は脳梗塞になる前兆であったり、重大な病気が隠されていることがあるので、神経内科か脳神経外科にかかるようにしましょう。
 先に延べた椎骨脳底動脈循環不全は血管の病気だけで起こるわけではありません。。
 椎骨動脈は首の骨(頸椎)の横にある狭い穴(図-A)を通りますから、頸椎に変性がある場合に首を強く曲げたり、回旋させると椎骨動脈が閉塞して同様のことが起こります。


椎骨動脈は首の骨

ソファーで横になって寝込んでしまった後目がさめた時にめまいや手足の麻痺、複視、失神などが見られたら頸椎の病気を考えなければなりません。この場合は脳神経外科か整形外科へ受診して下さい。


 身体の状態が原因で起こる失神で一番多いものは先に延べた血管迷走神経反射性失神です。迷走神経反射とは外界からの危険な刺激に対して自律神経である迷走神経がいろいろな臓器に防御反応を起こさせるものです。喉が詰まった時の咳や、異物を飲み込んだ時の嘔吐などがあてはまります。徐脈、血圧低下、冷や汗、眼前暗黒感を伴い失神します。この迷走神経反射はいろいろな原因で起こります。
 頸動脈洞性失神は首に固いカラーをきつく巻いているときや首を横に曲げた時に起こります。首の動脈である頸動脈にある圧センサーの頸動脈洞が刺激されると迷走神経反射が起こり失神するものです。これは再現性があり、心電図をモニターしながら頸動脈をマッサージする試験で失神が起こることを証明すれば診断できます。
 内臓迷走神経反射は排尿失神が有名です。夜ビールなどを大量に飲んだあと急に膀胱を空にしたときに失神します。排便失神も同様な原因です。
 起立性低血圧も迷走神経反射性失神の原因となります。皆さんも長く座っていた後急に立ち上がった時に目の前が真っ暗になってちょっとクラクラすることがあると思いますが、 糖尿病や自律神経の病気であるシャイドレーガー病ですと低血圧がひどくなり、失神することがあります。また眼球を強く圧迫したときも迷走神経反射が起こり失神することがあります。


 これらの迷走神経反射による失神は一過性のものが多く、起立性低血圧で失神を繰り返すような場合以外は病院へ行く必要はないと思います。しかしこれからあげる失神は病院へ行って調べた方がいいものです。心臓が原因で起こる失神は不整脈によるものが第一にあがります。徐脈になる心ブロックや頻脈となる心房細動や心室細動でも結局心臓からの血液を送る量(心拍出量)が減り、脳虚血となり失神を起こします。
 有名なものはアダムス・ストークス症候群といって心臓の脈が非常に遅くなって起こります。この場合には心臓ペースメーカーの植え込みが必要になります。その他にも心筋梗塞や大動脈弁狭窄症でも失神を起こします。心臓から起こる失神の場合、枯れ木が倒れるようにドサッと倒れ、頭部外傷になることもあります。失神中に脈の乱れがあった場合は必ず循環器内科へ行くことをお勧めします。

排尿失神 起立性低血圧

 肺の病気でも失神は起こります。咳嗽失神と呼ばれるもので、中年の男性で喫煙者や慢性の呼吸器の病気を持っている人に起こりやすく、せき込んだ時に胸腔内圧が高まり、心臓に血液が戻らなくなるために起こる失神です。また貧血で運動をした場合などにも失神は起こります。低血糖で起こる失神では頻脈となり、発汗、手の震え、不安が伴います。この場合はすぐに甘いものを少し食べたり飲んだりすれば改善します。
 他にも血液中のナトリウムやカリウム、カルシウムの異常でも失神が起こります。


 こういった身体の症状が全く無い場合でも、薬物によるもの、精神的な原因によるものなどがあり、診断が困難な場合も多々あります。

どうすればいいか

 以上述べたように失神はいろいろな原因で起こります。では起こった時にどうしたらよいでしょうか。まず一番大切なことは呼吸がちゃんとできるようにすることです。失神は突然起きますから、嘔吐したものが喉に詰まってしまったり、また原因によっては呼吸が止まってしまうこともあります。衣服の首の部分のボタンをはずしたり、ベルトをゆるめたりして楽に呼吸ができるようにして下さい。

楽に呼吸ができるようにする

 通常失神は血圧が低下していることが多いので、足をあげて頭を低くし、頭部へ血液が行くようにします。心臓に原因がある場合も多いので、手首や首の部分を触ってを診ることも大切です。
 また失神で倒れた時に頭を強く打ってしまうこともありますから、その場の状況で判断しなければなりません。失神の場合は身体から力がぬけたようにダラッとした状態が多いのですが、てんかん発作の場合は手足が突っ張ったり、ガクガク動いたりします。いずれにしろ失神が長く続く場合や、脈がおかしい場合、頭部を強く打った場合には病院へ行くことが必要です。


 失神は原因がいろいろあるので病院へ行っても何科に行ったらいいか困ると思います。どうしても分からなければとりあえず、神経内科か脳神経外科にかかってみればいいと思います。
 失神中にはっきりとした不整脈があったり、胸の痛みを伴っていれば内科(循環器)、せきが続いて失神したら内科(呼吸器)、首を動かすと失神するようであれば整形外科か脳神経外科、めまい、複視を伴うようであれば神経内科か脳神経外科、子供の失神は神経専門の小児科か神経内科か脳神経外科か精神科、貧血や電解質異常、糖尿病が疑われた場合は内科(血液、腎臓、内分泌、糖尿病)などへ行くことになります。
 精神的ストレスが強く失神をおこしてしまう時は精神科やメンタルクリニックに行く場合もあります。

脳の病気

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