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神経難病の治療と病棟の役割|第3診療部長 中島 雅士

2017.08.05

 今回のスタッフ・コラムでは、神経難病の治療と、その治療におけるわれわれの障害者・難病リハビリ病棟の役割について説明します。神経難病にはいくつかの種類がありますが、その多くは成人してから発症し、しゃべる、食べる、歩く、排泄する、などの日常生活に必須の機能が徐々に害(そこな)われていきます。

 病気の始まる年齢も疾患によって異なりますが、早くは30歳代から、遅い場合でも60歳代に始まることが多く、日常生活だけではなく、仕事や今後の人生設計についての見直しを迫られます。


初期神経難病の診断と治療

img1.png 神経難病の診断は難しいものではありません。経験を積んだ神経内科医であれば、病気の経過を尋ねること(病歴聴取・問診)と身体所見の診察(神経学的診察)で、たとえ疾患の初期であっても80%以上の確率で診断できます。補助診断として核磁気共鳴画像検査(MRI)、脳代謝・血流検査(PETまたはSPECT)、筋電図、各種自律神経機能検査などがあり、これらの結果を総合して薬物をはじめとする治療方法を選択します。

 しかし、神経難病を患う方々が求めることは、その診断名と治療だけではなく、自分の病気がどのような経過をたどり、その過程で現われてくる障害にどのように対処し、あるいは障害を受け入れてよりよい人生を送っていくことにあると思います。

parkinsons.png 神経難病の中でも頻度の高いパーキンソン病は、手を使う、歩く、しゃべるなどの運動機能が障害されますが、脳内のドパミンという化学物質(神経伝達物質)の働きを増強する薬物、または脳深部電気刺激による運動症状の治療効果が高い疾患です。しかし、これらの治療の開始から10年を経ると、個人差はありますが、脳内のドパミンがつかさどるもう一つの機能であり、ニコチンやコカインへの依存にも関与するドパミン作動性報酬系の影響が強く出て、精神的な抑制が効かなくなることがあります。

 精神的に安定した生活を優先するためには、日常生活の介護依存度が高くなっても薬物の投与量を控えるという治療を選ぶこともできます。


進行期神経難病の療養と治療

 日本の多くの大学病院、総合病院では、神経難病の診断には時間をかけるものの、その後は短時間の外来診察でくすりの種類と量を調整しています。このような診療では、患者とその家族のよりよい生活のために助言し、将来起こりうる重い障害(例えば食べ物が飲み込めない、動くと息苦しい、など)の時期を予測し、それぞれの患者の人生観に重きをおいた医療介入(例えば人工的栄養・水分補給、気管切開、あるいは機械的補助呼吸)の選択または非選択について話し合っていくことはできないでしょう。


img2.png私が1995年から1998年まで勤務していたカナダのブリティッシュ・コロンビア大学/バンクーバー総合病院の筋萎縮性側索硬化症(ALS)クリニックでは、ALSを患う方々の日常診療はかかりつけ医が担当し、3~6ヶ月に一回の外来診察で一人の患者に2時間をかけて、病気の進行状況を問診・診察と筋電図検査で判断します。

 さらに神経難病の登録看護師は、患者の家庭を訪問し、同じ疾患で苦悩する患者またはその家族との出会いを提案することもあります。こうした様々なアプローチを通じて、神経難病を患う方々の自らの意思による延命的医療介入の選択または非選択(どのような延命治療を受けたくないか)を援助していきます。

British Columbia大学 Andrew Eisen教授

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Vancouver総合病院 Clinical Fellow

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鶴巻温泉病院 障害者・難病リハビリ病棟の役割

 われわれの病棟は、「入院機能を生かして神経難病患者の療養と地域医療を支える」という目標を掲げています。かつては病状が進行して、療養病院での入院生活を送らざるを得なかった方も、かかりつけ医の往診と訪問看護・介護の充実で、家族とともに生活することができるようになってきました。


 下の図は当病棟の目的別入院患者内訳の変遷を年度ごとに示したものです。この図に表されているように、平成26年度から28年度にかけて、在宅療養を支援するための短期入院(在宅サポート入院)を繰り返して利用する方と、リハビリテーションを目的に3カ月間程度の入院を利用する方の数が増加しています。

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 こうした方々の当院入院中は診断以来の神経内科主治医と連絡をとりあって、神経難病特有の問題に根差した個々の患者の「自分らしい生き方」を支えていきます。また、初めて在宅サポート入院を利用される方には、病棟看護師とリハビリテーション・スタッフが訪問して、入院によるストレスを最小限にできるように在宅療養環境を伺います。


 リハビリテーション入院または長期療養入院の方が在宅療養に戻るときには、やはり訪問によって在宅環境調整を助言し、訪問看護ステーションとの退院前カンファレンスを設けて円滑な在宅療養への移行を図ります。退院後の当院スタッフによる訪問看護・介護、および在宅リハビリテーションの継続も可能です。


関連リンク


神経難病相談外来を開設しました

 私はこの病院に赴任してから3年目になりますが、神経難病を患う方とその家族がより充実した生活を求めて、将来起こりうる障害とその時期、そして個々の人生観に重きをおいた医療介入の上限について、医療者と話し合える機会を持てないことで不安を感じている姿を少なからず見受けます。

 こうした不安を持つ方々の神経学的診察、あるいは家族からの病状問診にもとづいて、われわれの病棟の多様な入院機能を利用した「自分らしい生き方」を求める端緒となることを目的として、2017年7月から神経難病相談外来を開設しました。

 窓口は当院の地域連携室です。お電話で相談内容をお聞きして日程を調整します。われわれの病棟が経験し積み上げてきたものが、少しでも神経難病を患う皆様のお役に立てれば幸いです。


  • 鶴巻温泉病院 第3診療部長
    中島 雅士
  •  日本神経学会認定神経内科専門医・指導医
     米国神経・筋電気診断医学会(ABEM)認定専門医

【略歴・業績】については、こちらをご覧ください。


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